研究・実践・+αによる社会課題解決はどのように仕掛けていくのか.(「リサーチカンファレンス」振り返り)
もう2ヶ月前のことですが,「LITALICO研究所リサーチカンファレンス」にて,シンポジウムのモデレータを務めさせていただきました.
簡単にLITALICOとLITALICO研究所の紹介をします.
LITALICOは,株式会社LITALICOは「障害のない社会をつくる」をビジョンに掲げ,就労支援や,幼児教室・学習塾などの教育サービス,ウェブサービスやアプリを提供しています.
LITALICO研究所は,「研究」という手段でビジョン実現を加速していく集団です.実は僕が新卒で入社するときに社長に「研究所作りたいです!」と息巻いていて,入社して3年半後にそれが実現したというとても思い入れのある取り組みです.
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そんなところで本題に戻ります.
イベント全体の趣旨は,「『障害のない社会をつくる』ための研究とは」というテーマを掲げたもの.
まさにど真ん中ど直球のテーマでした.
企画時点では「どうなるかな~・・」と先読みできなかったのですが,
登壇してくださる方々に声掛けをしていく過程で「これはとても面白いものになるぞ・・・!」と確信が芽生えてきて,当日は案の定刺激的なものになりました(僕自身が楽しめた).
まずは,登壇者の方々の紹介をします(発表順).
井田美沙子さんは,LITALICOで発達障害児の保護者向けのワークショップであるペアレントトレーニング*1を実践し,そのファシリテーターの育成や企画,研究など幅広く行っています.
佐々木銀河さんは,筑波大学のダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンターで大学生活に何らかの困りがある学生を包括的にサポートする活動と研究をなさっています.その活動の一環としてご自身でアプリやシステムを開発し現場で実践してもらいフィードバックループを回す経験を語ってくださいました.
石川廉さんは,認定NPO法人フローレンスでロビイング活動*2の舵取りを行っており,障害福祉サービスの「スキマ」で困る方々の課題解決に奮闘しています.
青木翔子さんは,NPO法人PIECESで貧困,虐待,不登校といった本質的には子どもの孤立という社会課題に対して実践と研究をされています.また,ミミクリデザインでワークショップ実践の研究もなさっているのでそれらの実践を合わせたエッセンスを聞けました.
タキザワケイタさんは,一般社団法人PLAYERSのプロジェクト&HANDについて話をしてくださいました.もともと様々なバックグラウンドを持つプレイヤーたちが集まって社会実験的にスタートしたプロジェクトの創発の面白さが印象的でした.
シンポジウムで登壇者の方々のいくつかの事例を基にどのように『障害のない社会をつくる』ための研究をしてゆくか複数の確度で検討しました.なお,「障害のない社会をつくる」はLITALICOのビジョンでありますので,以下では一般化して「社会課題を解決する」ための研究という視点で書きます.
先に結論としての僕自身のまとめを書きます.
3つのまとめポイント
- 複雑な実社会の課題を解決するには,異なる専門性を組み合わせて「解決」をアウトカムにするというビジョンを共有する必要がある(「共有ビジョン作り」).
- 課題を「解決」するという方策・武器のレパートリーは多様で良いし混ざり合う(「X位一体」).「解決」に向かうための方策を検討・実験・選択をする.
- エビデンスパラダイムを内包させた実験的実装パラダイム(「つくる・ためす・ひろめる・つくる」)を実践し,課題解決を進め検証する.
ひとつずつ登壇者の方の話も引用しつつ説明します.
「共有ビジョン作り」
「何を今更当たり前な」と思うかもしれませんが,大事なことは何度でもというので,改めて言語化します.
どの取り組みも ビジョンを共に創り上げていく営み*3があり,関わる人間がなにか問題にぶつかったときや判断を迫られるときに立ち返る旗印として機能しています.
例えば,石川さんの事例だと,医療的ケア児*4が保育所のサービスを受けることができないという社会問題を解決するという明確なビジョンがありました.
他の方々の取り組みも例に漏れず明確で共有ができているビジョンがあります.
そして忘れていけないのは「解決」をアウトカム*5にするということです.
どうやるかにこだわりすぎるのではなく上段にあるのは「解決」であるということ.
「解決」という目印に向かってビジョンを創り上げてメンテナンスをしていくことがポイントの1つ目でした.
「X位一体」
1つ目は「どうやるか」にこだわりすぎず解決に向けた共有ビジョンづくりについてでした.
2つ目は1つ目がある前提で「どうやるか」に目線が移ります.
このポイントは僕が目からうろこでした.というのも自分たちが取り組んでいた「どうやるか」が,実は多種多様なアプローチと実践が有るのだということに注目できずに今までいたからです.
「三位一体*6」自体はいろんな文脈で使われていますね.
ここでは「『どうやるか』の効果的な組み合わせ」というニュアンスで扱っています.
方法論は3つよりも多く,その分野で従来行われていた方法ではない方が解決に向けて効果的に取り組めると思います.
- ロビイングしていくことで課題を浮き彫りにし*7,顕在化した社会課題に対して小さい「解」をつくる.
- テクノロジーを活用し,文化や雰囲気を作り出す活動を実験的に行い,その活動すらもメディアとして伝達手段たらしめる.
- 事業を展開し,多角的にニーズを拾い上げていき新規サービスの開発を行うことで今まで主事業では解決できていなかったひとたちの困りにアプローチをする.
- あえて研究と実践という境界線を意識させない構造体を作り出し,場を構成し,課題解決につながる共有知を作り上げていく.
- クリエイティブのちからをふんだんに活用し,ひとびとの共感と応援をエネルギーに変えていき加速する.
- 研究分野のサーベイや現場のニードから解決できていることとできていないことの先端を見出し,プロトタイピングをして実験する.
「つくる・ためす・ひろめる・つくる」
最後は,実験的実装パラダイム.
京都大学の中山先生は,特に医療臨床実践分野でEvidence-based medicineの観点から,エビデンスにまつわる局面を
「つくる」「伝える」「使う」
と整理しています(2010)*8
これは「局面」としているので,時系列的な意識が強い印象があります.
中山先生の考え方を援用して考えたのが,
「つくる・ためす・ひろめる・つくる」
というパラダイムです.これは,佐々木さんの「言語化・プログラム化・データ化」という考え方もヒントにしています.
つくる:エビデンスをつくるだけでなく,プロトタイプングする・場を構成するなど,眼の前の問題のもやもやを多様な表現方法で形にすること.これは解決策までセットの完璧のものである必要はなく,問題を共有できる形状であればなんでもいいと思います.
ためす:つくったものを試してみます.プロトタイプだったらユーザーに使ってもらう・場だったら人を巻き込んで参加し体験する・わかったことや確かめたいことはインタビューをする.
ひろめる:試したものを友達・知人づたいやソーシャル上の興味関心に紐づく人たちに発信をしていきます.ひろめることが楽しいことや共感,議論を巻きおこしより多くの人が「つくる」・「ためす」ことに参加できるようになります.
つくる:二回目の「つくる」は,「つくる」「ためす」「ひろめる」のプロセスそれ自体を多様な表現方法で形にすることです.例えば,動画にする・ブログ記事にする・活動発表の場を持つ・学会で発表する・・・.この二回目の「つくる」が新しい「つくる」「ためす」「ひろめる」 を導いてくれ,課題解決のスピードが加速していくと思います.
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長くなりましたが,まとめます.
リサーチカンファレンスを通して,社会課題の解決に向かうために必要なことは3つだと考えました.それは下記の通りです.
- 「解決」志向の共有ビジョンをつくる(「共有ビジョン作り」)
- 目的的に機能する(文字通り)多様な方法論を模索する(「X位一体」)
- 実験的実装パラダイムを実践する(「つくる・ためす・ひろめる・つくる」)
考えたことを検証しアップデートするには,自分自身が実践的研究者・科学的実践者としての振る舞いをすることが必要です.僕自身が身をもって検証をするためのversion1.0として書いてみました.
皆さんはどう考えますか?
▼参考図書
学習する組織――システム思考で未来を創造する
*1:元々は井田さんが卒業した鳥取大学の井上雅彦教授のもとで開発したものを,井上教授とともに共同研究しLITALICOで開発したものを提供しています.詳細はこちらをどうぞ!
*2:ロビイングとは,政治団体ではない個人や法人が,政府の政策に影響を及ぼす活動のことを全般的に言います.投書箱のように意見をいうだけでなく,その実現に向けて動いていきます.
*3:詳細は「学習する組織」参照.
*4:障害児や医療的なケアが必要な子どもたちのことを言います.医療的ケアが必要な子どもたちは長時間の保育を受けるサービスがありません.詳しくはこちら
*5:アウトプット(結果)ではなく,アウトカム(成果)であることがミソ.
*7:イシューレイジングということばもある.詳細は割愛.